第5回 乗馬のためのヨガアーサナ《バランス感覚編①》
今回はバランス感覚を養うのに効果的なアーサナ(ヨガのポーズ)をご紹介します。体のバランス感覚は乗馬でもヨガでも非常に重要な要素のひとつです。乗馬で馬をコントロールするのに使う合図である扶助の主なものは、シート、脚、拳と言われていますが、このうちどれを使うにしても前提として重心がむやみにずれることなく自分の体をしっかりコントロールできている必要があります。しかし、人間の体も馬の体も骨格や筋肉の付き方が完璧に左右対称ということはまずありません。運動中も同じでその体の歪みをカバーするため、どこか一部の筋肉を他の部分より多く使ったり、逆に右利き左利きなどの生まれつきの体質や長年の習慣などによる動きの癖が骨格の歪みにもつながっていきます。そして、多くの場合そういった微妙な動きの癖は無意識であり、体の歪みについても気づかないことすらあります。さらにそれが騎乗時であれば、自分の体だけでなく馬の動きも感じ、コントロールしなければならないため、余計自分の体には意識が向かなくなったり、真っ直ぐ乗ろうとしても馬が動いてるため自分の自然な重心の位置が分かりにくくなり、前傾や後傾のしすぎ、または左右どちらかに傾いてしまったり、ということが見受けられます。
乗馬と同じくヨガでも『バランス』は大事なキーワードです。でも、「自分はバランス感覚がないかも。」「乗馬の時によく傾いていると注意されちゃう。」と思う方でもご安心ください。バランス感覚が必要なアーサナはたくさんありますが、練習により徐々に習得していくもので、最初から出来る必要はもちろんありません。今回はそのバランス感覚にアプローチするアーサナのひとつ『木のポーズ』についてご紹介します。古くから伝わるものですが現在でもヨガのクラスで非常に頻繁に行われる代表的なポーズで、ヨガ未経験者でも見たことや聞いたことがあるのではないでしょうか。
それでは、ポーズのやり方から見ていきましょう。ここでは簡単に説明するので、経験のない方は指導者の指示を仰いだり、他のヨガに関する本や動画などをぜひ参照してください。まずは両足で直立し、そこから体重を左足に移しながら、右足を曲げて足の裏を左の腿の内側につけるようにします。右足のつま先は下、膝は外を向いています。この時、骨盤が左に動きすぎないように注意しましょう。そして両手を胸の前で合わせ、安定したらさらにその手を頭上まで上げていきましょう。一つひとつの動作をしっかり呼吸しながら行い、最後の姿勢でゆっくり2〜3呼吸キープします。視線は一点を見つめるようにするとバランスがとりやすくなりますが、強く凝視せず、柔らかい表情を意識しましょう。その後、ゆっくり直立姿勢に戻り、左右の足を入れ替えて同じように行います。
お尻が片側へずれてしまいがちなポーズですが、足から頭上の指先まで真っ直ぐ伸びるようにし、軸となる足は腿の内側のラインを意識し、しっかりと地面に根付いている感覚を感じましょう。おへそは体の中心に引っ込めるようにしますが、同時にお尻が後ろにいかないよう、尾骨を下に向けます。こうして体幹をしっかり意識することでぶれずに安定したポーズをキープできるようになります。
バランス感覚にアプローチするアーサナの面白いところは、思考がどれだけ体のコントロールに影響するかを感じられることです。視線の向け方は木のポーズを行う上でポイントとなり、視線を安定させることで姿勢も容易に安定できるようになりますが、思考についても同じで何か他のことに気が向いた途端、姿勢が不安定になることに気づくでしょう。そして、もし集中が切れてぐらついてしまっても、また意識を自分の体、視線、呼吸に戻すとまたバランスも取りなおすことができるでしょう。
このように、木のポーズはバランス感覚はもちろん、体幹や集中力といった乗馬でもとても重要な要素を鍛えることができる素晴らしいポーズです。ヨガと乗馬に共通する体の仕組みを理解して行うと練習もより楽しくなるかもしれません。そして、馬上でも木のポーズを行う時のバランスや体幹の感覚を思い出してみると、きっと自分と馬の体をコントロールする助けとなるでしょう。
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執筆者:市村美歩
2016年、イギリスWrittle University College, Equine Sports Therapy and Rehabilitation(馬のスポーツセラピーとリハビリテーション専攻)の学位取得。2019年インドにて全米ヨガアライアンス認定ヨガ指導者資格取得。
現在は『Miho Ichimura Equine Sports Therapy』で馬のマッサージを中心とした整体、スポーツセラピーのサービスを提供。海外の馬情報もSNSで配信中。